個室をつくらずに、"ひとりになれる"場所を。|○○市 K様邸(延床28坪・在宅ワークのある家)


限られた広さのなかで、「家族と過ごす時間」と「それぞれが集中できる時間」の、どちらも諦めたくない——。土地探しから私たちと歩まれた、アラフォーの共働きご夫婦の28坪の新築注文住宅です。
「集中できる居場所がほしい」——ご夫婦の、ふたつの願い
フルリモートで働くご主人のご希望は、「家のどこかに、集中できる仕事の居場所がほしい」。とはいえ、個室をもう一部屋増やす余裕は取りづらく、当初は半ば諦めかけていらっしゃいました。
一方で奥様からは、「家族の気配は感じていたいけれど、リビングでくつろぐ時間に、仕事の声や画面が混ざるのは避けたい」というご相談がありました。
まだ小さなお子さまが一人いて、日中も家族が家にいるご家庭。だからこそ「気配は近く、でも仕事は混ざらない」の両立が、切実なテーマでした。
広い土地を取りづらいエリアで、延床は大きくは望めない。「増やせないなら、どこを優先して暮らすか」。間取りを描きはじめる前に、暮らしの優先順位をご夫婦と一緒に整理するところから、この家づくりは始まりました。
個室を増やすのではなく、"開いたまま、ゆるやかに分ける"

たどり着いたのは、部屋を一つ増やす答えではありませんでした。1階LDKの窓際に造作デスクの一角をつくり、「開いたまま、ゆるやかに分ける」設計です。
ダイニングのすぐ脇に置くことで、家族の気配はいつも届く。けれどデスクの向きを家族の動線に対して振り、画面と手元が、くつろぎの場の正面からは見えにくいように整えました。
デスク上部にはオープン棚を造作し、仕事道具の定位置を確保。暮らしの空間に"仕事の散らかり"が侵食しないようにしています。
窓はあえて机の正面ではなく脇に取り、外の緑は感じられて、画面への映り込みや西日のまぶしさは抑える向きにしました。
床は無垢材、壁は調湿する塗り壁。ダイニングのすぐ隣という距離感が、仕事の一角と食事の場を、やわらかく共存させています。
当初の「2階の書斎」を、手放した理由
じつは当初、独立した書斎を2階に設ける案もありました。けれどそれでは「家族から切り離された個室」になってしまい、奥様の"気配は感じたい"という願いと相反します。
そこで方針を変え、1階LDKの一角に「開いた仕事場」を造作する形へ。壁で囲って静かにするのは簡単ですが、それでは孤立してしまう。
配置——家具の向き、造作棚、窓の取り方——で、つながりを保ったまま集中をつくることに、いちばんこだわりました。
外観のかたちは、暮らしの優先順位から決まった

在宅ワークの居場所を含む1階のLDKを、いちばん広く取りたい。そのために寝室と水回りは2階にまとめ、凹凸の少ない箱型(総二階に近い構成)としました。軒や庇は深く出さず、輪郭のはっきりしたシンプルな箱の形にしています。
外周の凹凸で生まれる床面積のロスを最小限にするための、必然の形です。
外壁は白の塗り壁で軽やかに、明るく。玄関まわりの基部にはグレーのタイル調の素材を回して、下側に重心を置いて落ち着かせました。テラス側は大きな引き込みサッシで大きく開き、シンボルツリーを一本だけ立てて、外と中がつながる余白を残しています。
見た目のためのデザインではなく、暮らしの優先順位を立体にした結果として、このシンプルな箱の形にたどり着きました。外と中が、同じ一つの判断でできています。
一日こもる場所だから、温熱と静けさを底上げ
性能は、UA値0.43/C値0.4(実測)。
一日の多くをここで過ごす場所だからこそ、夏冬の温熱環境と静けさを、しっかり底上げしています。
住まい手の言葉
「閉じこもらなくても、ちゃんとひとりになれる。家族の隣にいるのに集中できるのが不思議です」(ご主人)
限られた広さを「諦める理由」ではなく、「優先順位を決める起点」に変えられたこと。それが、この家でいちばん効いたことでした。


